食品産業産官学イノベーションセミナー 「価値発信の進化と市場創造への提言」開催報告
2021/01/15
食品産業 産官学イノベーションセミナー 「価値発信の進化と市場創造への提言」 開催報告 |
公益社団法人 日本食品科学工学会
副会長・産官学連携委員長 久能 昌朗
(キユーピー株式会社)
1. セミナー開催の趣旨
我が国の食品産業が,市場の成熟化および不確実化に向き合うなかでコロナ禍の直撃を受けている状況を鑑みると,国民の食生活の向上に寄与することを目的に掲げている日本食品科学工学会(以下,当学会)としては,アカデミアの視点から食品産業に貢献できることがないものか考えさせられます.当学会と食品産業のつながりの活動母体は産官学連携委員会(以下,当委員会)であり,当委員会は当学会の設立当初に設置されて,綿々とその役割を担ってまいりました.オープンイノベーションなど,産官学協働に関わる経営学の理論が提唱されており,現在の社会環境において,産官学連携の重要性は,今や時代の潮流となっています.
上記の内容を背景にしまして,当委員会が食品産業と公官庁,アカデミアという産官学のインターフェースになり,食品産業に携わる方々に「新しい気づき」を得ていただくことを特に意識して,当委員会は本年度の活動を進めています.
当委員会が企画,運営した本年度第一弾のイベントが,食品産業産官学イノベーションセミナー「価値発信の進化と市場創造への提言」(以下,本セミナー)であります.当委員会のイベントは,これまでは集会の形式で開催されてきましたが,コロナ禍に対応して,本セミナーでは当学会員に事前登録していただき,オンラインでご参加いただくという形式に切り替えました.この際,本セミナーは以下の点で試行的な開催としました.
- 当学会以外の団体との共催とし,企画の内容を共創することにしました.今回は一般財団法人旗影会(学術振興等を目的として助成事業を行う財団)のご理解を得て,同会との共催とさせていただきました.
- 上述の「新しい気づき」の対象を,科学領域にこだわらずに,社会科学領域も包含し,文理融合の要素も取り入れました.
- さらに,科学領域においても,食品科学の領域を越えてロボット・AI の領域の専門家をお招きして,領域を越えた融合を図りました.
2. セミナーの開催概要と実施結果
本セミナーはスケジュールどおり順調に行われ,各講演ともに,常時120 名以上のWEB 視聴者がお
り,大変盛況でありました.
参加者の所属機関も,財団関係(6),大学関係(36),公的研究機関関係(20),企業関係,(56),NPO関係(1),その他(1)と多岐にわたっていました.
【セミナーの開催概要】
日時:令和2年11月5日(木) 13:00~17:45
場所:講演会場は,渋谷董友ビル(キユーピー本社ビル)2 階ホール(東京都渋谷区渋谷1-4-13)
開催形式:講演者・主催者・後援者・セミナー運営者のみが会場に入り(200名収容のホールに約30 名がソーシャルディスタンスをとり着席),感染予防を徹底して講演を実施.リアルタイムの講演を事前登録者にGoogle Meet でWEB配信.
参加人数:事前参加登録者150 名
参加費:無料
主催:公益社団法人 日本食品科学工学会,一般財団法人 旗影会
後援:農林水産省,東京農業大学,キユーピー株式会社
【プログラム】(敬称略)
コーディネーター:日本食品科学工学会副会長・産官学連携委員長 久能昌朗(キユーピー株式会社)
司会:産官学連携委員 山崎 毅((特非)食の安全と安心を科学する会(SFSS)理事長)
13:00~13:10 日本食品科学工学会 会長の挨拶 高野 克己(東京農業大学 学長)
13:10~13:20 旗影会 業務執行理事の挨拶 中島 周(キユーピー株式会社 取締役会長)
氏名 | 所属 | 内容 | |
基調講演 13:20~14:20 |
千葉 一裕 | 東京農工大学 学長 | イノベーションとそれを牽引するリーダーの心構え |
小休憩 | |||
14:30~15:15 | 弓取 修二 | 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) ロボット・AI部 部長 | NEDO における事業成果の社会実装を目指した取り組み |
15:15~16:00 | 山本(前田)万里 | 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 ヘルスケア創出研究統括監 兼 ヘルスケア創出特命プロジェクト長 | 機能性表示がもたらす食品産業の変革 |
小休憩 | |||
16:10~16:55 | 神岡 太郎 | 一橋大学大学院 経営管理研究科 経営管理専攻 教授 |
デジタルトランスフォーメーションとその課題 |
16:55~17:40 | 東海林 直子 |
日本電気株式会(NEC) |
企業のデジタルトランスフォーメーションの実践 |
17:40~17:45 閉会のご挨拶 日本食品科学工学会 副会長 松井 利郎(九州大学 教授)
千葉先生の基調講演では,イノベーションリーダーは,「現在価値の軸」,「近未来価値の軸」,「未来価値の軸」の3軸を持たなければいけないことを教えていただきました.
千葉先生の基調講演録画
弓取先生には,ロボット・AI という最先端技術であっても,複数の産業がつながり,かつ産官学それぞれの役割が融合することによってはじめて社会実装が可能になることを認識させていただきました.山本(前田)先生には,国家戦略,企業戦略としての機能性表示食品制度の活用のあり方をご指南いただきました.神岡先生には,成熟産業たる食品産業のリーダー達の真の課題に切り込みつつ,デジタル・トランスフォーメーションを切り口に,企業創成期を取り戻す覚悟を持つ必要性を伝えていただきました.東海林先生には,全体感と最適化,組織内のつながりを押さえたデジタルシフトの考え方と実例を分かりやすくご紹介くださり,疑似体験させていただきました.
本セミナー開催中の一貫した視聴率の高さは,講師の先生方の主張力と共感力に富むご講演の賜物であるというのが,筆者の率直な感想でした.
また,参加者へ,セミナー終了後に本セミナーに対するアンケートをお願いしたところ,参加者の皆様から高い評価をいただきました.
【アンケート集計結果】
アンケート集計期間:2020年11月5 日(セミナー終了)∼2020 年11月13 日(12:00まで)
アンケート回答数:75件(セミナー参加者人数:149 名)
〈セミナープログラム構成について〉
大変満足(30.7%),満足(66.7%),普通(2.6%),やや不満(0%),大いに不満(0%)
以上のように,他団体との共催や文理融合,食品科学の領域を越えた企画であっても,企画の趣旨やプログラム構成次第では参加される皆様に好感を持って迎えられることが分かりました.本セミナーの実績を踏まえて,当委員会による当学会員へのサービスのあり方の一つとして,今後もこのスタイルのセミナーやシンポジウムを開催していきたいと考えております.