新刊紹介

NEW2024.1.11

食育の百科事典

日本食育学会編

A5版,上製本,432頁,2023年9月15日刊行
ISBN 978-4-321-30814-1
定価16,500円(本体15,000円+税)
丸善出版株式会社
(〒101-0051 東京都千代田区神田神保町二丁目17番)

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食育学には、教育学、家政学、生活科学、栄養学、人文科学、社会科学、農学、食品科学、医学等、実に幅広い学問分野が関係していて、全体を把握するには、多くの書籍を参考とする必要がありました。本書は、これらすべての分野をカバーする、監修者、編集顧問、編集委員および執筆者によって編纂されたものであり、その顔ぶれを見ただけでも、その内容がいかに充実したものであるかが理解できます。

 本書は、全7章、157項目から構成されており、第1章は、食の基礎知識と食育ツールと食育の基礎について、第2章は、食育とサステナビリティと食育の持つ未来性の記述となっています。第3、4章は食育の実践面の記述であり、対象別食育、食育推進施策が取り上げられています。第5章は、食育の歴史であり、古くは江戸時代からの食育の流れが記述されています。第6章には、食育に欠かせない文化的側面、そして、第7章には、世界各国の食育が取り上げられていて、全体の構成からも、食育を俯瞰的に理解するための工夫が凝らされています。

 栄養士、管理栄養士を目指す学生たちのレポートを読んでいると、参考文献として本書を取り上げたものが一気に増えています。このことからも、本書の魅力や価値が、いかに高いものであるかが理解できます。

 食にかかわるプロの人たちだけではなく、食に関心を持つすべての方にとって、有益な情報を与える一冊であると考えます。

(H.N.)

NEW2024.1.9

ポリフェノールの科学

基礎化学から健康機能まで

寺尾 純二、下位 香代子 [監修]

A5版、228頁、2023年11月01日発行
ISBN 978-4-254-10303-8 C3043
定価 本体4,000円+税
発行所 朝倉書店
(〒162-8707 東京都新宿区小川町6-29)
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 食品という視点からは、ポリフェノールは健康機能との関係から注目されることが多い化合物群である。本書は、コンパクトな書籍サイズの中にポリフェノールに関する基礎的な事項から最近の研究成果までの幅広い内容を取り上げている。全部で21からなる章は大きく3つに分かれているが(目次の詳細は出版社のウェブサイトにて確認することができる)、これらの全頁数の約74%に当たる第二部と第三部は健康機能性に関する題材に割り当てられている。

 第一部は化学に寄せた基礎的な内容を取り扱っているが、一般的なポリフェノールの化学の話というよりも、その多くは第二部と第三部の理解を助ける役割を担っている。極めて基礎的な内容の部分を除き、最近の研究が解説されているため、引用文献が総じて新しいことが魅力的である。どの章も基本的にその分野における研究の動向と今後解決されるべき課題について触れられており、それらは最終章において編者らによって総括されている。このことは、関連分野に参入しようとする者に新たな研究のインスピレーションを与えるかもしれない。

 なお、本書にはQRコードからアクセスできるウェブ付録があり、以下の資料が入手できる:本書に収録されている化学構造式の図版、第1章に関連した「ポリフェノール研究の歴史」年表、第18章の表18.1「各国におけるフラボノイド/ポリフェノール摂取量」の参考文献リスト(原著論文のサイトのURLが表示されているため、それらへ容易にアクセスが可能)、第21章「ポリフェノール研究の将来展望」のベースになった座談会の模様、略語表(本書末尾に掲載した略語表に補足を加えた完全版)。ポリフェノールの健康機能性に関して、最近の研究動向に興味がある者、これからこの分野に参入しようと考えている者にとって有益な書籍である。

(N.H.)

2023.6.1

生食のはなし

―リスクを知って、おいしく食べる―

A5版、160頁、2023年4月05日発行
ISBN:978-4-254-43130-8 C3060
定価 本体2,700 円+税
発行所 朝倉書店
(〒162-8707 東京都新宿区新小川町6-29)
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 わが国には、元来、寿司や刺身などに代表される生鮮魚介、生卵など、生食の文化が根付いている。近年は、ユッケや鳥刺しなど、一部の地域や集団に好まれていたメニューが、インターネット情報の普及にも後押しされ、全国に拡大するとともに、新たに、家庭用の低温調理器が人気を集めるなど、飲食店や家庭における生食への嗜好と提供形態は多様化している。一方、超高齢化社会を迎えて、健康弱者は増加しており、生食に起因する食中毒発生のリスクは、益々、増大している。本書は、そのような社会的背景をふまえ、一般向けに、生食のリスクと、食中毒の予防対策を、分かり易く解説している。

 

本書の構成は、以下の4章から成り、総勢33名の専門家が執筆を担当している。
第1章:食文化の中の生食
第2章:食肉・卵・乳製品
第3章:魚介類
第4章:野菜・果実

 第1章では、「日本において生食文化はどのように生まれたのか」から説き起こし、世界各国の多様な生食文化についても取り上げている。また、食の機能を重視した生鮮食品の機能性表示制度の活用についても解説している。

 続く、2~4章では、食材別に章立てを行い、加熱せずに食べる、各種の「生食」の生産・流通過程を示した上で、そのリスクについて、実際の食中毒事例を交えて説明するとともに、調理現場や家庭における、衛生対策や注意点を紹介している。さらに、2,3章においては、食中毒の原因となる細菌やウイルス、寄生虫などの危害要因の専門知識を、汚染可能性のある食材と結びつけて、コラムで詳しく解説している。4章では、生鮮野菜やその一次加工品(カット野菜等)、漬物、総菜など野菜調理食品による、食中毒例も取り上げ、一般には見落とされがちな、交差汚染や、施設給食、総菜販売などの大量調理に潜むリスクとその対応が述べられている。

 本書は、消費者の生食に対する正しい理解と、その衛生管理に対する知識の啓蒙を目指したものであるが、科学的知見にもとづく具体的な解説を多く含み、教養書や教科書としても読み応えのある良書である。

(S.T.)

 

2023.4.7

HACCPを支える食品微生物の自主検査 

戸ヶ崎 惠一著
A5版、242頁、2023年3月20日発行
ISBN 978-4-7821-0472-9 C3058
定価 本体3,300円+税
発行所 幸書店
(〒162-0051 東京都千代田区神保町2-7)
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 HACCPの制度化が2021年6月から施行となり、原則、全ての食品事業者に一般衛生管理に加えHACCPに沿った衛生管理の実施が求められるようになった。食品事業者は具体的な衛生管理計画の策定や記録、衛生水準の計画的な改善が求められることになった。このような背景から、HACCPの考え方とその目的意識を深めるとともに、食品事業者が自ら実施する自主検査の重要性が高まっている。
 本書は、下記の 9 章から構成されている。

第1章     HACCP―その歴史と今日的意義
第2章     HACCP と微生物検査
第3章     食品微生物の自主検査 ―製品最終検査結果証明から工程管理のための検査へ―
第4章     微生物検査に関わるコンプライアンスと経費
第5章     自主検査で取り扱う食品微生物
第6章     自主検査導入に際しての注意点
第7章     食品の期限表示と自主検査
第8章     検査の自動化・機械化と培養によらない検査
第9章     経営戦略としての自主検査の取組み
 2014年に発刊された「自社でもできる食品微生物の検査」から、大幅に内容が補足・充実化されている。HACCPと自主検査との関係性について述べられた上に、自主検査の導入、最終章には経営を考えたうえでの自主検査の立ち位置について生の声が実例として記載されており、これから自主衛生検査を実践される方々にとって参考となる書である。

(S.K.)

 

 

2022.7.1

菓子変敗の科学-微生物的原因とその制御- 内藤茂三著

 本書は一般的な和菓子・洋菓子とパン・果汁飲料を対象として、その細菌による腐敗やカビの発生、あるいは酵母の増殖による品質劣化といった問題を取り扱っている。具体的には「洋菓子」(1章)、「和菓子」(2章)、「蒸物菓子」(3章)、「焼物菓子」(4章)、「糖蔵菓子」(5章)、「パン」(6章)「ゼリー菓子および果汁飲料」(7章)、「餅菓子」(8章)、「米および小麦粉菓子」(9章)ならびに「チョコレート」(10章)の微生物変敗とその制御法が記載されている。

 本書の基本的な構成は各章(食品カテゴリー)ごとに、まず原料と製造工程から混入しうる腐敗等の原因微生物について述べた上で、具体的な食品(たとえば「蒸物菓子」カテゴリーであれば「ういろう」など)ごとに腐敗(とその制御法)等に関する情報がまとめられている。

 本書の著者(農学博士、技術士)は三重大学農学研究科修士課程修了後、愛知県産業技術研究所食品工業技術センターに長年、勤務されてきた方だけあって、現場で発生した問題の解決に役立ちそうな情報が各所に掲載されている。たとえば「どこの段階の何をターゲットとしてどのような対応を行えば、クレーム事例を減らすことができるのか」ということを考えざるをえないような事案が生じた時に、製造工程図に主たる腐敗原因細菌が記載されている図と本文を合わせて読むと、有用な知見が得られる可能性がある。

 本書の著者は食品全般を対象とした同種の本(「食品の変敗微生物―その原因菌と制御 (再改訂増補)」幸書房 2018年)や、食品およびその製造環境のオゾン水殺菌に特化した本(「食品とオゾンの科学―微生物的原因とその制御」幸書房 2017年)も執筆している。本書に記載されている内容の一部はこれらの本と重なるところもある。本書では製造現場の一般衛生管理(殺菌)にオゾン水を使用した例が多く紹介されているが、多くの現場で使用されているような塩素系殺菌剤や洗浄剤などの情報の記載は少ないので、この点については注意が必要である。

 本書は、菓子の微生物学的品質劣化とその制御法に特化した、日本語で読める総説書としては類を見ないものでもある。この種の食品の品質管理や商品開発に携わる人にとっては、大変有用な良書である。

(Y.I.)

A5版、417頁、2022年4月20日発行
ISBN 978-4-7821-0463-7 C3058
定価 本体6,200円+税
発行所 幸書店
(〒162-0051 東京都千代田区神保町2-7)

 

2022.5.11

食と健康 -食を知り食を生かそう- 

缶詰技術研究会編
小堀 真珠子監修

2015年に機能性表示食品制度が新たに開始された.この制度により,生鮮農畜水産物やその加工食品も健康の維持・増進に役立つ機能性を,消費者庁に科学的根拠を届け出て事業者の責任において表示できるようになった.現在加工食品で2,300件以上,生鮮食品で130件以上消費者庁のデータベースに収載され,機能性表示食品は身近なものとなり,最近の食と健康ブームに拍車をかけている.
 本書は,月刊誌「食品と容器」(缶詰技術研究会発行)に『シリーズ解説:食と健康-食を知り食を生かそう-』として,2019年60巻10号(第1回)から2021年12月号(第25回)に掲載され好評を博した下記の25の解説記事の別冊合本である.

第1回 健康によい食事とは
第2回 栄養・食生活要因とがん・生活習慣病のリスク
第3回 食品の機能とその活用
第4回 農林水産物の機能性表示
第5回 大豆イソフラボンの健康機能
第6回 ウンシュウミカンに多いβ-クリプトキサンチンと生活習慣病予防
第7回 お茶の健康機能
第8回 大麦食品を用いた健康機能性の検証について
第9回 リンゴの健康機能
第10回 リコピンを中心としたトマトの健康機能
第11回 玄米と納豆の健康機能性
第12回 GABAを含む食品の健康機能-高血圧予防の可能性-
第13回 ホウレンソウの健康機能性
第14回 乳酸菌・ビフィズス菌の健康機能
第15回 DHA・EPAの健康機能
第16回 タマネギの健康機能性
第17回 食感と健康な食生活-高齢者食の新しい物性評価法-
第18回 ヒト胃消化シミュレーターを利用した食品の消化性評価
第19回 食における味と香りの役割
第20回 食品の味と個人嗜好の可視化
第21回 食品知覚と味覚・嗅覚経験
第22回 食における視覚の役割
第23回 食感と咀嚼音-介護食の食感改善への応用-
第24回 フード3Dプリンタによる食感創成と次世代食品製造
第25回 食と健康:科学的証拠の現状

 上記ように,食と健康を考えるにあたって, 基本のバランスよい食生活,コホート研究が示す食品の健康機能,栄養・機能性成分の役割,各種農産物等の機能性,食と健康・おいしさに関わる感覚機能と関連技術,食と健康の科学的証拠の現状を紹介する解説記事で構成されている.

 感覚機能の果たす役割を含め,「健康に良い食」「健康長寿に役立つ食」とは何か,そしてその科学的根拠とはどのようなものかの理解を深め,健康に役立つ食生活を実践する上で大変参考となる良書である.

(S. K.)

A4版,171頁,2022年5月9日発行
ISBN978-4-9909936-1-0 C3058
定価 3,400円(10%税込)
缶詰技術研究会
(〒100-7008 東京都千代田区丸の内2-7-2 JP タワー8F)

 

2021.12.21

SDGsで始まる新しい食のイノベーション 山崎康夫著

 世界的に「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成が重要な課題として注目されている. SDGsの達成にあたっては, 事業者等は,「その活動に関して制約を受ける」,「無理をしなくてはならない」,「何かを犠牲にしなくてはならない」といった具合に受け取りがちかと考える. しかし, 本書においては, SDGsへの取り組みが, ①企業イメージの向上, ②社会課題への対応, ③新たな事業機会の創出につながるメリットととらえた上で, そのメリットを活用してSDGsを達成していくためには, 食品関連産業にかかわる事業者として, 何をどのような手順で行っていけばよいかを, 実際の事例を交えて分かりやすく解説している. 

 本書は, 7章で構成されており, 「第1章 SDGsって何?」では, SDGsが生まれた背景やSDGsを活用して企業が変化していく可能性を示している. 「第2章 SDGsの目標と食品企業ができることは?」では, SDGsの17の目標ごとに, 食品産業における適用方法を事例とともに示している. 「第3章 SDGsはどうやって進めるの?」では, SDGsを取り入れる手順を, SDG Compassを参考として解説している. 「第4章 やはり食品ロス削減は大切!」では, 食品関連産業における最大の課題である食品ロス削減に関して, 様々な方策を紹介している. 「第5章 食品産業にCO2削減って関係ある?」では, CO2削減を目指して, 食品産業が取り組むべき指針を示している. 「第6章 SDGsで食のイノベーションを始めよう」では, SDGsに向けて食品関連産業におけるイノベーションを起こすことを提言するとともに, 最近活性化が目覚ましいフードテックに関しても紹介している. 「第7章 私たち, SDGsを始めてます」では, 農業分野, 食品工場関連, 6次産業化関連などでの取り組みの事例を紹介している. 

 食品関連産業に従事する方々にとって, SDGsのメリットを幅広く理解し, 活用していく上での入門書としての良書である. 

(H.N.)

A5版,並製,142頁,2021年11月20日刊行
ISBN978-4-7821-0460-6
定価2,640円(本体2,400円+税)
株式会社 幸書房(〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-7)

 

2021.11.15

ナチュラル ミステイク ー食品安全の誤解を解くー ジェイムス T. マクリガー著
林 真,森田 健 監訳
ILSI Japan 食品リスク研究部会 訳


本書籍は James T. MacGregor の「A Natural MistakeWhy natural,organic,and botanical products are not assafe as you think」(2019 年出版)を特定非営利活動法人 国際生命科学研究機構(ILSI Japan)の食品リスク研究部会が翻訳したものである.著者の J.T. MacGregor は米国毒性委員会専門委員や政府毒性学者協会会長などを歴任した元 FDA の毒性研究者である.
本書は,下記の様な 13 章から構成されている.
第 1 章 はじめに
第 2 章 植物は人に優しくはない:化学戦と植物の進化
第 3 章 毒性の原因特定は難しい:重篤な毒性でも見逃される理由
第 4 章 規制の枠組み:法による規制の違い
第 5 章 自然のものは安全と考える間違い:問題点と事例
第 6 章 ハーブサプリメントと「機能性食品」:学び,そして忘れられた教訓
第 7 章 機能性食品への医薬品や生物活性物質の違法な添加:深刻な事例第 8 章 食品,添加物および残留農薬の規制
第 9 章 栄養補助食品,医薬品,化粧品の規制-植物由来サプリメント(法律に基づく特別なケース)
第 10 章 立証責任:FDA の権限と限界
第 11 章 有毒化学物質:ハザードとリスク
第 12 章 最も大事なこと:健康的な食事とライフスタイル
第 13 章 消費者および立法機関と規制当局の皆さんへ
本書は,米国の消費者が思い描く自然食品,オーガニック食品,植物由来サプリメントならば安全という「食品安全の誤解」の現状に警鐘を鳴らし,医薬品,農薬や食品添加物と同等に,食品についても,ハザードとリスクに基づき科学的に安全性を考える事の重要性を説いている.さらに,化学物質の種類によって異なる米国の安全性評価の行政上の矛盾を指摘している.日本の状況を訳者追記による囲み記事として,日本の状況も情報提供されている.本書は,食品の安全性やその歴史的経緯についての面白い読み物ともなっている優れた啓発書である.

(S.K.)

B5 版,217 頁,2021 年 4 月 30 日発
ISBN 978-4-904397-08-4 C3036
Amazon.co.jp オンデマンド(ペーパーバック)
定価 2,750 円(税込み)
発行所:特定非営利活動法人 国際生命科学研究機構
(〒102-0083 東京都千代田麹町 3-5-19)


2021.10.15

米の科学 高野克己,谷口亜樹子 編

 本書は日本で親しまれているさまざまな食品素材,また加工食品について多角的に解説し,読者に総合的な知見を提供することを目指し企画された〈食物と健康の科学シリーズ〉の 15 冊目である.本書は次の 12 章で構成されている.
1.作物としてのイネ
2.世界と日本のイネ栽培
3.需給と栄養
4.育種および栽培と外観品質・食味
5.構造と化学成分
6.分類
7.物理化学的性質
8.食味
9.米料理と調理
10.加工品
11.米と微生物
12.精米工程および貯蔵と品質
本書は「イネ」,「米」,「ご飯」に関わる各分野の専門家25 名が執筆し,米に関する最新の科学技術を紹介している.米に携わる研究者,技術者,大学院生,学部学生,米の産業に従事している方々のみならず,米(ご飯)や食品に関心を持つ一般読者にも適した書である.

(U.M.)

A5 判,198 頁,2021 年 9 月 1 日発行
ISBN 978-4-254-43555-9 C3361
定価 本体 3,600 円+税
発行所 株式会社朝倉書店
(〒162-8707 東京都新宿区新小川町 6-29)

 

2021.9.15

食品のコクとは何か ─おいしさを引き出すコクの科学 西村敏英・黒田元央 編

 本書の二人の編者が日本国内で食品のコクに関する研究会を組織し,活発な議論が続けられていることは,食品科学工学にとって重要な貢献になるものと期待される.「コク」という語は日常的に頻繁につかわれているが,定義が明確でなかったため,混乱が生じていた.本書はコクに関する現段階での統一的理解を目指している.
 コクという言葉は長年使われてきたが,本書の随所で指摘されているように,そもそも日本語の「味」という語が正確に使われてこなかったことは問題である.たとえば,イチゴの味について,イチゴの呈味(甘味,酸味)を感じながら,イチゴのニオイを感じており,味とニオイが総合的に感知されてイチゴの味わいが生ずる.執筆者らが主張するように「味」ではなく「味わい」と呼ぶべきであろう.主として口当たり,歯ごたえ,のど越しなどの領域を専門とする評者からすると,「味」に限らず,「かたさ」や「凝集性」なども間違った使い方がされていることが多く,一朝一夕には改まらないかと半ば諦め気味であるが,本書がきっかけとなって,何気なく使われている「コク」について考え直す気運が広がると期待したい.
 本書は 7 章からなる.第 1 章「食品のコクとその生成メカニズム」はコクの定義から始まり,コクの 3 要素(複雑さ,広がり,持続性),コクが生成するメカニズムに関する解説.第 2 章では,食品の呈味成分,味覚修飾物質についての概説の後,食品の香気成分,コクに対する味のほかニオイの関与,その感覚生理学的把握,さらに,食品のとろみとそのコクに対する関係の解説.
 第 3 章では,味の受容体,味神経,味細胞などの基本事項,コクの感覚刺激を感じる仕組み,さらに,ニオイと味,ニオイ物質,ニオイを感じる仕組みについて解説.
 第 4 章では,食嗜好の先天性と後天性,感覚強度や嗜好を左右する心理的要因,五感(視聴嗅味圧覚)の間の相互作用について解説.
 第 5 章 食品のコクに関連する官能特性の測定方法,特に評価者の選定,訓練,識別試験と記述分析に関しての解説の後,コクの官能評価に触れている.また,電気化学的原理から開発され,多用されているセンサによるコクの測定,嗅覚センサの仕組みと応用,とろみの機器計測について,解説.
 第 6 章では,食肉・食品製品,ブイヨンのおいしさとコク,カレーのおいしさとコク,カニ,ホタテガイ,メバチマグロ,魚醤など水産食品のコクに寄与する呈味成分,チーズのおいしさとコク,味噌のおいしさとコク,ビールのおいしさとコク,ワインのおいしさとコクなど各種食品のコクに関して最新の情報が満載.
 第 7 章では,以上を総括して,コクを活かしたおいしい食品の開発を展望している.
 記述は概して分かりやすく,食品のおいしさに関して興味のある読者にとっては,有益な成書である.コクの理解に関して専門の異なる研究者が相互理解できるように書かれていることは貴重な試みである.各章の章末には,興味深いトピックスがちりばめられており,一層の魅力を添えている.
 生理学や心理学の勉強の必要性を感じている評者のようなものからすると,感覚量と機器測定量の間に認められている指数則に関しての概説とか,脳神経科学の部外者向け解説などの章もあるとありがたい.多感覚の間の相互作用に関しては英語での成書が数年前から出ており,本書が貴重なものであるが,初学者には専門用語の英語も併記してあるとありがたい.

(K.N.)

A5 版,256 頁,2021 年 7 月 10 日発行
ISBN 978-4-7699-1670-3
定価 4 ,000 円+税
株式会社 恒星社厚生閣
〒160-0008 東京都新宿区四谷三栄町 3-14

 

2021.6.15

園芸利用学 山内直樹・今堀義洋 編

 2015 年の国連サミットで採択された SDGs(持続可能な開発目標)」に示される 17 の目標の中で,食品ロスの削減は,多くの目標に関連がある重要な項目である.とくに野菜や果実などの青果物は,収穫した後も呼吸などの生命活動を続けるために,品質が急速に低下する.また,青果物は,ビタミン A やビタミン C,食物繊維等の重要な給源である.生産された青果物を無駄なく利用するためには,青果物の品質に関わる生理・生化学,分子生物学の知見に加え,流通工学の研究と,それらの応用・普及に向けた取り組みが重要である.さらに,青果物は多様であり,国内流通の安定化や輸出促進のためには,品目ごとの特性を把握することが必須である.これらの研究分野は園芸利用学と呼ばれている.
 本書は,現在,園芸利用学の第一線の研究者 27 名を執筆者として,過去の研究蓄積や現在の研究成果と,今後に向けた最新の技術がコンパクトにまとめられた教科書である.
 本書は,次のような 12 章で構成されている.
第 1 章 食生活の変遷と青果物の果たす役割
第 2 章 青果物の生産および輸出入の変遷とサプライチェーン
第 3 章 青果物の食品成分特性と機能性
第 4 章 青果物の収穫後生理
第 5 章 栽培環境と収穫後品質
第 6 章 青果物の流通
第 7 章 品質評価
第 8 章 青果物の貯蔵
第 9 章 貯蔵障害および貯蔵病害
第10章 青果物の冷凍貯蔵
第11章 青果物の一次加工
第12章 新たな収穫後処理と品質保持
 本書は,園芸科学や食品科学分野の大学院生,試験研究機関の研究者,および流通・貯蔵に関わる技術者の方々にも参考となる良書である.

(M.N.)

A5 版,単色刷り 312 頁,カラー 4 頁,
2021 年 4 月 10 日発行
ISBN コード:978-4-8300-4142-6 C3061
定価 4,400 円+税
文永堂出版 株式会社
(〒113-0033 東京都文京区本郷 2-27-18)

 

2021.6.15

食品事業者のための「次亜塩素酸の基礎と利用技術」 福﨑智司 著

 次亜塩素酸は,1800 年代かの半ばから使用されてきた消毒剤であり,塩素消毒の活性化因子として知られている.
 食品産業では,従来から次亜塩素酸ナトリウムが洗浄,殺菌,漂白,脱臭操作に幅広く用いられてきた.処理対象は,食品製造設備,機器,器具類,食材,用水,排水,臭気ガスなど多岐にわたる.現在では,電気分解で調製した次亜塩素酸水(強酸性,弱酸性,微酸性)などがある.これらの水溶液の主たる活性因子は次亜塩素酸であるが,各水溶液の pH の違いにより洗浄,殺菌,漂白などの作用効果は大きく異なる.
 次亜塩素酸水溶液の利用においては,先ずは作用機序および安全性に関する正しい知識を持ち,その上でどのようなシステムで活用するかがポイントとなる.
 本書では,化学洗浄や殺菌が専門である著者が,次亜塩素酸系資材を取り扱う現場において食品事業者が理解しておくべ基礎知識(理論)と利用事例(実際)を中心に解説している.
 本書は,下記のような 10 章から構成される.
第 1 章 次亜塩素酸の基礎
第 2 章 次亜塩素酸の殺菌・不活化機序
第 3 章 次亜塩素酸の洗浄機序
第 4 章 次亜塩素酸の高分子材料への浸透と脱臭・脱色・抗菌機序
第 5 章 野菜の洗浄・殺菌への利用
第6章 室内空間における低濃度次亜塩素酸の安全性
第7章 超音波霧化噴霧による空間微生物の制御
第8章 強制通風気化方式による空間微生物の制御
第 9 章 次亜塩素酸のシリコーンゴムへの透過と種々の不活化作用
第10章 次亜塩素酸による局部腐食と劣化 
 2021 年は HACCP(Hazard Analysis and Critical ControlPoint)制度が適用される年度である.食品事業者は,一般衛生管理に加えて,業種や規模に応じて「HACCP に基づく衛生管理」また「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」のいずれかを衛生管理として実施する必要がある.HACCP システムを適切に運用し衛生的な環境を維持する上で,次亜塩素酸水溶液は,洗浄・殺菌操作に有効な主な衛生資材の 1 つである.HACCP 衛生管理において,次亜塩素酸の作用効果を最大限に引き出すためには,次亜塩素酸の特性を充分に理解する必要がある.本書は,まさにこの趣旨に合致したタイムリーな食品事業者向けの解説書である.

(S.K.)

B5 版,147 頁,2021 年 4 月 20 日発行
ISBN 978-4-7813-0454-5 C3058定価 3,300 円+税
株式会社 幸書房
(〒101-0051 東京都千代田区神田神保町 2-7)

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